人事評価制度の作り方とポイント

人事評価制度の作り方とポイント

人事評価制度の作り方とポイント

※お忙しい方、重要なポイントだけ押さえたい方は
「5.評価制度の失敗事例」と「6.評価制度を上手に導入する方法」をご覧ください。

1.評価制度とは

そもそも評価制度とはどのような種類があるのでしょうか。
まずは評価制度とはどのようなもので、どのような種類があるのかを解説していきます。

簡単に説明すると、基準に則って評価し、評価される仕組みのことです。
評価制度とは異なりますが、学生は教師にテスト結果や授業態度、提出物などの基準に則って通知表という形で成績を付けられますが、仕組みとしては同じです。

評価制度には大きく分けて「目標管理評価」、「期待成果・期待行動評価」、「360度評価」といった3つの種類があります。
これらから1つ選ぶという方法もありますし、複数の種類を混ぜ合わせることも可能です。

 

1-1.目標管理設定

1人1人が目標を設定して、その達成度に応じて評価される仕組みです。
目標設定は本人か上司、もしくはその両方で決定します。

1-2.期待成果・期待行動評価

1人1人が目標を設定して、その達成度に応じて評価される仕組みです。
目標設定は本人か上司、もしくはその両方で決定します。

1-3.360度評価

一般的な評価は上司が部下を評価する体制がほとんどですが、この360度評価は上司が部下を評価するだけでなく、部下から上司、先輩や後輩間、同僚同士での評価といった形で複数名から、多方向から評価される仕組みです。
何に応じて評価されるかは、「1.目標管理評価」「2.コンピテンシー評価」どちらでも可能です。

 

2.評価制度を作る目的

評価制度を作る目的は企業によって異なりますが、代表的な目的をご紹介します。重要なことは、何を目的に評価制度を作るのかという軸をブラさずに仕組みを作っていくことです。
また、目的は1つだけでなく複数あっても問題ありません。

2-1人材育成

評価制度によって評価を実施し、未達成のポイントを改善してもうことで人材育成につなげる。
どのような成長を企業が社員に求めているのかを示すこともできます。
評価制度を導入、運用するためには、評価する側も、評価される側もそれぞれ能力が必要になりますので、その点でも育成につなげることが可能です。

【必要な能力の一例】
評価する側適性に評価する能力、日々部下を観察する能力、目標設定能力
評価結果と改善点をフィードバックする能力
評価される側:評価(=期待される成果や能力、プロセス)の基準を理解する能力
目標設定能力、行動改善に向けたPDCA管理能力

2-2.賞与・昇格などに反映

経営者が社員1人1人の成果や日々のプロセスを把握できているうちは、経営者の判断のみで給与や賞与、昇格を決めることも可能かもしれませんが、社員からはその理由が分かりません。では、どのように決めるのか。そこで評価結果を反映する仕組みにすることで理由が明確になります。
ですが、これだけを目的として評価制度を導入することはあまりおすすめできません。
給与・賞与・昇格などに反映するだけを目的とする場合、必然的に期待する成果に対する結果へ比重が偏ります。それも悪いことではありませんが将来的に継続した企業と社員の成長を考えるとベストな選択ではありません。プラスで他の目的にも目を向けて見てください。

2-3.社員のモチベーションを上げる

目標を明確にし、その達成を目指して努力したプロセスや成果が評価されることで、社員のモチベーションを上げる。
目標に向けてモチベーションを上げることも可能ですが、合わせて「2.給与・賞与・昇格などに反映」も組み込むことで効果が上がります。

3.評価制度(共通)のメリット・デメリット

3-1.評価制度(共通)のメリットとデメリット

【メリット】
どのような種類の評価制度でも共通するメリットとしては、評価するために必然的に対象者の日々の行動を把握するようになることが挙げられます。
印象的な成果は記憶に残りやすいですが、そのような瞬間的な出来事だけでなく、その成果に至るプロセスや行動が重要です。(偶然で評価されることを防ぐ)

①質の高い母集団にアプローチできる

まず一番にあげられるのが欲しい人材に好きなだけアプローチできるということだと思います。採用の目的は自社の事業をヒトのリソースを使って推進していくことだと思いますが、自社のフェーズや今後の目標に沿って欲しい人材に対してアプローチできる点があげられます。

【デメリット】
評価制度を導入する前は「何で評価されているか分からない」「何を頑張ればよいのか分からない」といった不満がある一方で、
評価制度を導入した後は「A店は評価結果がフィードバックされて上司が一緒に目標設定をしてくれる」「人に対して好き嫌いが激しいBさんに評価されたくない」といった不満が出てきます。
つまり、評価の運用の仕方や評価する側の能力差に対して不満が出てくるのです。
「こんなことなら評価制度なんて始めなければよかった・・・」と思ってしまうこともあるでしょう。このような状況に陥らないためにも事前に運用体制を整えたり、運用できるレベルの仕組みを作ったり、評価者の育成をしたりする必要があります。

3-2.3つの種類別のメリットとデメリット(目標管理評価)

【メリット】
自分自身が納得した目標をもとに評価されるので、達成に向けて前向きに取り組んでもらうことが可能です。
評価するために目標設定が必要なので目標設定能力の向上にも繋がります。
また、評価の度に目標設定をするため組織や仕事が流動的な会社には適しています。

【デメリット】
設定した目標が評価基準となるため、全社員の目標のレベルで整合性を取ることが非常に困難です。目標を設定する社員にその能力があれば問題ありませんが、整合性を取ることは目標をただ設定するよりも難易度が非常に上がります。
また、他職種の業務や仕事を把握していればまだ可能性がありますが、把握できていないと正直不可能に近いです。

3-3.3つの種類別のメリットとデメリット(期待成果・期待行動評価)

【メリット】
今までは漠然としていた会社として社員に期待する成果や行動を整理することができます。また、評価基準を評価者や管理職と一緒に作成することで経営者の意思浸透にも繋げることが可能です。
さらに評価基準を明確にしたうえで評価を実施するため、結果のブレが発生しないメリットもあります。

【デメリット】
評価基準で定められた範囲でしか評価ができないというデメリットがあります。また、業務変化やKPIの変化によっては設定した評価基準が実情と合わなくなり、見直しの必要性が発生し得ます。

3-4.3つの種類別のメリットとデメリット(360度評価)

【メリット】
上司では把握、評価しきれない部分を他で補うことができます。また、多くの社員が評価される側だけでなく、評価する側も担うことができます。
評価や企業が期待していることを理解するには評価する側になることが一番です。
上司だけから評価されるより、他からも評価されることで本人の評価に対する納得度も上がります。

【デメリット】
上司だけでなく、評価する側になる社員は全員が適正に評価する能力が必要となります。
例えば、下記それぞれの社員ではどちらが評価されるでしょうか。
~パターン1~
A:時には厳しい指導をする社員
B:ミスをしてもかばってくれる社員

~パターン2~
A:自分の仕事が終わらないときは他からの頼まれごとを断る社員
B:自分の仕事が終わらなくても頼んだら何でも引き受けてくれる社員

それぞれのパターンを読んで「これくらいどちらが良いか判断できる」と思われる方も多いと思いますが、実際にこの状況に陥ったとき、それぞれの違いが分かりづらかったとき、評価者としての能力が乏しく自分に都合の良い社員が良く見えてしまうとき、
そんな状況では実際には間違った評価を付けてしまう可能性も高いでしょう。
一歩間違うと人気投票になり得てしまうのです。

4.評価制度の作り方のポイント

ここからは評価制度の作り方について説明していきます。
評価制度を作るプロセスは「前準備」「種類を決める」「評価内容を決める(大枠部分)」「評価基準を決める(詳細部分)」「運用準備」の5段階です。
どのプロセスでも共通して重要なポイントは、目的を忘れずに、無理をしないことです。

4-1.前準備

いきなり評価を作るのではなく前準備が必要です。
どのような準備をするかというと、「①誰が作るか」「②いつまでに作るか」「③誰に適用する仕組みなのか」の3点を決めることです。

4-1-1.①だれが作るか

経営者が1人で作ることが間違っているわけではありませんが、必要な部分で管理職や評価者になる社員の力を借りてください。

ポイントは実情に合った評価制度を作ることです。

卓上の空論になっては意味がありません。おすすめは種類や大枠までは経営者や経営幹部で決め、評価基準の詳細部分は管理職や評価者に力を借りる方法です。

場合によっては外部の力を借りて、相談に乗ってもらったり、フォローしてもらえる体制で作ることもおすすめです。

4-1-2.➁いつまでに作るか

絶対に決める必要があるわけではありませんが、経営課題を重要度と緊急度で分類すると、評価制度は「重要度は高いが、緊急度は低い」に分類されがちです。つまり緊急度が高いわけではないので、他のことの後回しにされがちです。
「評価制度を作り始めたけれど、気づいたら後回しになって中途半端担っていた」といった話も耳にします。
そのような事態を防ぐためにもいつまでに作るのか、いつから運用するのかを決めておくと良いでしょう。

4-1-3.➂誰に適用する仕組みなのか

社員と言っても雇用形態や携わる事業、担う職種は様々です。これから作る社員は誰に適用する仕組みなのかを整理しておきましょう。
「初めての評価制度だからまずは正社員の営業職からスタートしてみよう」といった判断も選択肢の1つですが、そのような場合は他の雇用形態や職種ではいつからスタートさせるのかも合わせて検討しておきましょう。

 

4-2.種類を決める

前述した通り、評価制度には大きく分けて「目標管理評価」、「期待成果・期待行動評価」、「360度評価」といった3つの種類があり、これらから1つ選ぶという方法もありますし、複数の種類を混ぜ合わせることも可能です。
当然ですが複数の種類を混ぜ合わせるとその分、社員理解と運用の難易度は上がります。初めて評価制度を作る野であれば、「期待成果・期待行動評価」がおすすめです。

4-3.評価内容を決める(大枠部分)

続いて評価制度の大枠部分を決めていきます。大枠部分とは、どのようなジャンルで評価をするのかです。
「成果(実績・定量)」「実務(スキル)」「定性(スタンス)」の3つに区分することができます。
目的や自社の運用レベルに合わせてこの3つの比重や評価項目数を決めましょう。
それぞれ重要なポイントですが、「成果(実績・定量)」については評価の為だけに集計する実績を増やすことはせずに普段から追っている実績で評価をして下さい。(本来集計すべきなのにできておらず評価項目に含めることで集計せざるを得ない状況にするのは問題ないです。むしろそうした方が良いです。)
「実務(スキル)」「定性(スタンス)」については日々の行動、プロセスを観察する必要がありますので、評価項目数が多ければ多いほど、正確に観察しておかなければならないことが増えます。評価者であれば観察することも仕事の1つですが、それだけが仕事ではありません。無理のない範囲で設定して下さい。今まで多くの会社を見てきましたが、適正範囲は実務と定性を合わせて下記の通りです。「成果(実績・定量)」の項目数は別で考えてください。

【目標管理評価】
10項目前後
※評価者がプレイングマネージャーの場合は5〜8項目

【期待成果・期待プロセス評価】
20〜30項目
※評価者がプレイングマネージャーの場合は10~15項目

4-4.評価基準を決める(詳細部分)

大枠まで決まったらあとは詳細を決めていきます。評価をするということは、点数やランクをつけなければなりません。
何かできたら3点なのか、何かできたら5点なのかといった形で評価基準を決めていきます。
1点や2点といった点数にするか、AやBといった英語にするかは意図や背景、経営者の好みによって自由に設定して問題ありません。
ですが問題は何段階で評価基準を設定するかです。当然で段階が多ければ設定する評価基準も増えます。おすすめは5段階です。

4-5.運用準備

最後に評価制度を運用スタートするために運用準備をします。
運用準備では「①評価サイクル・スケジュール」「②評価者と被評価者の組み合わせ」「③評価結果の報酬への反映方法」を決定します。

①評価サイクル・スケジュール
年間で評価を何回実施するのか、その回数に応じて評価をするタイミング細かいスケジュールを決めていきます。
年間の回数はできれば何回も実施できた方が良いですが、現実的に難しい回数で設定しても実行できず、評価自体がストップしてしまうことが多いです。
ですので可能であれば年4回(四半期に1回)、難しい場合は年2回(半年に1回)の評価回数で検討してください。
評価をするタイミングですが、業界、会社で忙しい時期に評価実施が被ることはできるだけ避けてください。細かいスケジュールは「〇月△週で自己評価」といった形で設定しましょう。

②評価者と被評価者の組み合わせ
誰が誰を評価するのかを決めます。基本的には日々の仕事を把握できる人が評価者となるように組み合わせを設定してください。

③評価結果の報酬への反映方法
評価を上げるために1人1人が努力して成果を残し、成長してもその結果が何にも反映されないと評価制度の効果を最大化させられません。
基本的には評価制度と報酬への反映はセットで考えてください。
結果は月給と賞与どちらにも反映させられるようにできるとベストです。

5.評価制度の失敗事例

こちらでは評価制度の失敗事例をいくつかご紹介します。

5-1.複雑な仕組みで社員が理解できない

評価制度は書籍や講演、今お読みいただいているコラムなども含め多くの情報を誰でも得ることができます。
多くの情報を得ると、色々な仕組みを組み込んだ制度にしたくなってしまいますが、実は評価制度を作る際には自社に合わせてマッチする仕組みを取捨選択していくことが非常に重要です。
あれもこれも含めてしまうと複雑になってしまい、結局は運用する社員が仕組みを理解できず、評価制度の効果が発揮されません。

5-2.評価基準の難易度が高すぎる

「目標管理評価」「期待成果・期待行動評価」どちらの場合でも理想を追い求めすぎて、評価基準の難易度を高く設定しすぎてしまうことには注意が必要です。
基準が難しすぎると「結局達成できないし」「難しすぎて評価されない」と社員が諦めてしまいます。
評価制度を作る時点での会社、社員のレベルに合わせて設定しましょう。
会社と社員の成長に合わせて評価の難易度も上げていけば問題ありません。

5-3.運用が続かない

既にお伝えした2つの失敗事例に陥ってしまった場合も含め、運用が続かない状態に陥ることは少なくありません。
評価制度自体は社員の育成やモチベーションアップを目的としていますので、そもそもすぐに効果が出るものではありませんので根気強く継続していく必要があります。
まずは評価を運用する当事者である評価者にその事実も理解してもらったうえで協力してもらうことが不可欠です。
評価者の協力があることで運用で発生した問題を解決できるケースも多いです。

 

6.評価制度を上手に導入する方法

最後に評価制度を上手に導入する方法をお伝えします。ここでお伝えする方法は”可能であれば”というよりも、”必ず”実施すべきことです。

6-1.評価制度はブラッシュアップしていく前提で

最初からフルボリュームの評価制度を作るよりも自社に合わせたボリューム、難易度で評価制度を作りましょう。
導入時はここまで、運用して2年後には追加でこの部分を、さらに2年後には、、、と徐々に仕組みをブラッシュアップしていきましょう。
おすすめは下記の通りです。

【初めての導入】
種類は「期待成果・期待行動評価」で、まずは評価される、評価するということに慣れる。
評価結果は報酬に反映される仕組みにする。

【導入から2年後】
評価内容のブラッシュアップとして評価項目を増やしたり難易度の上方修正を実施してください。
運用していた中での課題を解決するのにもうってつけのタイミングですし、評価者を増やすのにも適したタイミングです。

※※1人当たりの適性な評価対象人数※※
8名まで:
1人がマネジメントできる最大人数が7~8人と言われており、評価対象としても適性です。

9~10名:
負荷としては大きいですし、全員の日々の行動を把握できていない可能性がありますがぎりぎり許容範囲内です。

11~15名:
1~2年以内に分担できるように評価者を1名増やす準備が必要です。

16名以上:
できればすぐに他の社員と評価を分担した方が良いです。難しい場合は評価実施の期間を他より伸ばしたり、面談時間を短時間化するなどの対策が必要ですが、あくまでも応急処置にあるのでできるだけ早く評価を分担しましょう。

6-2.作る時点から評価者を巻き込む

前述した通り、評価を運用するのは評価者ですので、そのメンバーを作る時点から巻き込むことで運用前から、仕組みはもちろん意図や背景、経営者の想いを理解してもらえます。
報酬への反映は経営者や経営陣で決めるとしても、評価制度の根幹部分は評価者にも参加してもらうと良いでしょう。

6-3.導入時の説明は繰り返し

評価制度をスタートする前に必ず社員に制度を説明してください。評価制度を作る過程に関わっている社員や経営者自身は作る過程で制度に対しての理解度が増しますが、それ以外の社員は初めて知ること、聞くことばかりです。当然1回ですべてを理解することは難しいですので回数を重ねることが重要です。
できれば下記のプロセスで説明して下さい。
①評価者向けに説明
②評価者含め全社員に説明
③役職別や職種別に説明(できれば1回当たり10人未満で)
④評価を実施して評価者からのフィードバックで制度についても説明

ここまで色々な情報をお伝えしてきましたが、全てが自社にマッチするわけではありません。企業の特徴や状況によって必要なことが変わってくるのです。
ぜひ評価制度の導入をご検討の方は自社に何かマッチするのか、何を取り入れたら良いのかを検討してみてください。
もし悩まれたことがありましたら、いつでもご質問をお受けいたしますのでご相談ください。